財団法人 総合初等教育研究所

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社会についての基礎的知識の習得に関する調査

本調査の概要

1.調査の実施について
  本調査の趣旨
 

 今回の調査の目的は、「社会についての基礎的知識」に焦点をあて、子どもたちにどの程度習得されているかを把握するところにある。
ここでいう「社会についての基礎的知識」とは、社会生活を営む上で最低限知っておきたい知識、調べたり考えたりする際に基本となる知識のことである。用語や語句レベルの知識で、いわゆる一般常識と言われている知識、覚えさせたい知識を指している。その意味で、全ての子どもたちに最低限習得させたい知識であり、本調査はこうした性格をもった知識の習得状況を把握しようとするものである。

  調査内容
 

調査問題は、「調査問題A」と「調査問題B」の二種類を作成した。

〔調査問題A〕(第5学年社会科で取り上げられる内容)

  1. 47の全ての都道府県名を問う問題
  2. わが国の産業や国土に関する基礎的知識を問う問題
  3. わが国の国土にみられる特徴的な事象や概要を問う問題
  4. わが国の代表的な地形(半島、島、平野など)の位置を問う問題

〔調査問題B〕(第6学年社会科で取り上げられる内容)

  1. わが国の歴史上の主な出来事の年号を問う問題
  2. わが国の歴史や政治に関する主な事象を問う問題
  3. わが国の歴史上の主な事象とかかわりのある人物を問う問題
  4. わが国の主な歴史的事象の地図上の位置を問う問題題
  実施方法
 

(1) 実施の時期
2007年(平成19年)2月〜3月
調査問題A、調査問題Bの実施時間はそれぞれ約40分とした。

(2) 実施した対象学年
調査問題A……第5学年及び第6学年
調査問題B……第6学年

(3) 実施校数及び児童数
実施した小学校23校、第5学年48学級1574人、第6学年 72学級2388人。合計3962人。
調査問題A……第5学年1574人 第6学年1569人
調査問題B……第6学年1606人

2.調査研究書の内容から
  (1)調査結果の傾向
 

全体の傾向について、下記の表から、次のようなことがいえる。

  • 子どもたちの「社会についての基礎的知識」の習得状況は、全体的に見て十分とは言えない。 都道府県の名称と位置でさえ、確実に習得していない児童が多い。
  • 子どもたちの「社会についての基礎的知識」の習得状況には個人差があり、 基礎的知識をある程度身につけている児童とほとんど身につけていない児童との差が大きい。
  • 5年生と6年生の習得状況に大きな違いは見られない。つまり6年生だから結果が よいとは言えず、わが国の産業や国土、地理的な事項について、知識の積み上げや知識量の高まり が見られるわけではない。
  • とりわけ、地理的な位置や国土の概要についての基礎的知識が身についていない。

【表】 問題別に見る正答率(全体)

問題名と設問数及び問題の形式 正答率の範囲 平均正答率 正答数が8割以上の児童の割合 正答数が5割未満の児童の割合
A-1 都道府県名を問う問題(47問) 47から選択 46.9〜99.8% 63.5% 41.7% 37.4%
A-2 わが国の産業や国土に関する基礎的知識を問う問題(10問) 各問3つから選択 54.3〜93.1% 75.8% 58.3% 8.6%
A-3 わが国の特徴的な事象や概要を問う問題(10問) 記述 8.2〜93.4% 45.3% 14.3% 53.8%
A-4 わが国の代表的な地形の位置を問う問題(8問) 各問4つから選択 38.8〜63.9% 51.4% 14.5% 41.3%
B-1 わが国の歴史上の主な出来事の年号を問う問題(9問) 9つから選択 68.8〜82.9% 75.0% 55.4% 24.7%
B-2 わが国の歴史や政治に関する主な事象を問う問題(8問:歴史4問 政治4問) 記述 45.0〜89.3% 69.9% 歴史32.1%
政治42.4%
歴史25.9%
政治 9.6%
B-3 わが国の歴史上の主な人物の業績を問う問題(25問) 30から選択 38.3〜88.6% 70.1% 49.6% 23.6%
B-4 わが国の主な歴史的事象の位置を問う問題(10問:A5問 B5問) 地図AB各8つから選択 31.2〜77.3% 50.8% 24.3% 45.3%

 

  (2)結果の背景の考察
 

調査問題で問われた知識のほとんどが十分に習得されていないということは、 子どもたちに社会の出来事や社会的事象に対する関心が低下し ているからではないか。社会に対して関心を抱いていれば、これらの知識にも興味を もって進んで覚えようとするし、記憶していく。しかし、調査の結果にはそれ以上に、 次のような重要な背景があるように思われる。

(1)社会科という教科に対する受けとめ方の変化
    従来社会科は「暗記教科」だと批判され、いつしか「子どもに苦痛を強いる暗記はよくない」 といった風潮が一般化し、知識を覚えることを強く指導しない傾向があるように思われる。
(2)社会科授業そのもののあり方
    問題解決的な学習が従来から重視されてきたが、調べる活動そのものに偏ってきた感がある。 調べるためには、当然前提となる知識が必要であり、調べることによって習得する知識や調べた知識 をもとに考えることによって導き出される知識がある。このような多様な知識を整理したり確認したりする ことなく、ただ調べさせていたように思われる。ここに、「社会についての基礎的知識」の習得が不十 分だとする結果が出された背景があると考えられる。
(3)小学校において作業的学習を軽視する傾向が見られること
    かつて昭和40年代から60年代の授業では、日本の白地図に主な山地や山脈、 平野や川などに色を塗りながら名前を書き込む作業が盛んに行われたが、いつしか「作業には時間がかかる」 などと言われ、少しずつ作業の頻度が下がっていった。
(4)作業的な学習と地図帳の活用との連動
    地図帳が日常的に十分活用されていないようである。国土や地図に絡んだ調査問題の 結果がよくなかったのは、子どもたちが日頃から地図帳を有効に活用せず、 地図に慣れ親しんでいないことが影響しているものと考えられる。
(5)教室や家庭の学習環境の変化
    従来、どの教室にもそれぞれの学年に応じた日本地図と世界地図が掲示され、 地球儀が常時置かれていた。こうした教室の風景は、今も見られるだろうか。 家庭ではどうだろうか。子どもの身近なところに地図や年表を置き、 いつでも必要なときに目をやることができるような環境を整備したい。

以上のような事項が、今回の調査結果に少なからず影響したのではないかと思われ、改善が望まれる。

 

  (3)求められる「基礎知識」の抽出と今後の課題
 

 社会科の学習で取り上げられる知識は、じつに多様であり、 社会に見られる知識には階層性がある。(「知識のピラミッド型構造図(モデル)」参照)

 ピラミッドの頂点に位置づいている(A)にあたる知識は、抽象的で概念的な知識である。 これは、この下位に位置づく知識(B)を活用し考えることによって導き出され、 獲得される知識である。言い換えれば、(B)にあたる知識は、 上位の知識(A)を説明するときに活用される知識である。 またこれらの知識は、既有の知識を活用したり、 資料を活用したりすることによって習得される。これは説明的な知識と言われるものである。 さらにこの低位(C)には、用語や語句レベルの知識が位置づいている。これらは教師が教える知識で あり、子どもが覚える知識であるといえる。このように多様な知識はピラミッド型に階層化され構造化されている。

【図】 知識のピラミッド型構造図(モデル)

【図】 知識のピラミッド型構造図(モデル)

今回の調査で出題された「基礎的知識」とは、ピラミッドの底位に位置づいている、 主として用語や語句レベルの知識である。社会科の学びとは、 図に示された知識をボトムアップの視点で構成していくことであり、それはすでに習得してい る知識を活用しながら探究し、そこで習得した知識を活用しながら、さらに探究していく。 知識の習得と活用と探究を一体的かつ構造的に展開していくことが、子どもの学びを深めていく姿である。

「基礎的知識」には、例えば次のようなことを挙げることができる。

  • 四方位、八方位、縮尺、等高線、主な地図記号
  • 地域の安全や健康を維持する仕組みを理解するために必要となる基礎的な用語や語句など
  • 47都道府県の名称と位置
  • 国土に見られる主な山地や山脈、平野や川、湖、半島や湾、島など
  • わが国の農業、水産業、工業、国土の地理的環境を理解するために必要となる基礎的な用語や語句など
  • わが国の主な時代の名称と順序
  • 歴史上の主な人物とその業績
  • 歴史上の主な事件や出来事の年代
  • 世界の主な国や地域の名称と位置及び国旗
  • わが国の政治や日本国憲法を理解するために必要となる基礎的な用語や語句など

今回の調査から、これらの「基礎的知識」の習得が重要であるといえることから、 さらに「基礎的知識」の抽出研究や指導方法・教材の研究が課題になってくるといえる。

調査結果データのPDF版はこちらです 【PDF(319KB)】

 

3.調査研究書について
「社会についての基礎的知識の習得に関する調査」 1.規格 B5判88ページ
2.発行 平成20年3月11日
3.構成
調査研究編 I 本調査実施の概要
  II 調査の結果と考察
展望編 調査結果から見えてきた今後の課題
  特別論文 求められる教材の開発と活用
資料編 調査問題と解答
  調査結果データ
あ調査結果データPDF版(319KB)